間奏曲

ヤスデの啓示

 ニュージャージーセンターによく行く修行仲間は、長さが5〜6センチで幅が0.5センチぐらいの虫を見た事があると思います。その虫は腹の部分におよそ百対の足があるので、中国語では「百足虫(=ヤスデ)」と呼びます。この虫は普通、草地の柔らかい土の中か、厚い腐植土の層の中に住んでいます。ヤスデの背中は黒く、暗赤色の節があります。ちょっと見るとムカデに似ているので、たいていの人はちょっと怖がります。しかし実際にはヤスデが這って進むスピードはとても遅くて、また性格もおとなしいのです。軽く触るとすぐに縮こまってしまいます。メディテーションホールではよく彼らの姿が見られます。ホールの裏庭は荒地と接していますが、塀が隙間なく築かれていて小動物の侵入を防いでいます。つまりヤスデにも裏門から入り込む機会は少ないのです。実はヤスデは野原の腐植物質を食料としているので、私たちが不注意からホールに落とした飴の包装紙やクッキーのくずを探して食べる蟻とは違います。ですから、もし彼らがホールを訪れるとしたら、きっと食べ物を探すのではなく他に理由があるのです。
 7月のある日曜日の朝、午前4時のグループメディテーションが始まるまであと15分という時、ホールでは10人ほどの人がメディテーションをしていました。頭がちょっとボーッとしていたので、私はホールの外で準備運動をして、ついでに新鮮な空気を吸おうと思いました。階段の突き当たりの所まで来た時、面白い光景が私の目を引きました。白っぽいカーペットの上を、6センチほどの太った1匹のヤスデが体を伸ばしてホールの入り口の階段に向かってまっすぐに前進していました。階段からは約10センチ離れていましたが、全力を尽くしてホールに急いでいるようでした。
 私は、この類の虫が這うスピードはかなり遅いという印象を持っていました。しかし今日の虫は、早朝にこんなに速いスピードで、しかも彼の目的地は明らかにメディテーションホールでした。その時の光景には、おおげさではなく、本当に感動させられました。彼は重要な用事があり、その上遅れたので急いでいるような感じでした。対になった足が全部同時にモゾモゾと動くのがわかるほどで、そのスピードの速さ、方向の正確さにとても感心させられたのです。
 まだ朝の4時少し前ですから、ホールの中に何かおいしい食べ物が待っているわけではないし、おまけに表門からホールに行くには、必ずリビングルーム、コンピュータールーム、台所、洗濯室を通らなければならないし、また、階段の傍にはみんなの大好きな図書館があります。これらの部屋のドアはみな開いていたのに、彼はそちらに少しも興味を示さずにホールへ急ぎ、まるで早朝のグループメディテーションに行くようでした。住んでいる所から表門までの距離がどのくらいあるかは別として、大勢の人がメディテーションに来るのですからちょっと油断すればすぐ彼を踏む恐れがありました。ですから彼は建物に入った後、いつ命が奪われてもおかしくない状況だったのです。
 私が頭にちょっと触れると、彼はこの突然の行動に驚いて、すぐに平らなコマのような形になりました。私は彼を拾い上げて外へ連れて行こうと思いましたが、この時の彼は全身の足を収縮させて、いつでも私の手から滑り出せるように準備していました。その朝の彼の霊的な損失を補うために、私は彼を右手に移し、彼に向かって聖なる名前を唱えました。三つめを唱えてから、私は彼を花壇に置こうとしました。ところが意外にも彼は足を出して私の手にしがみついて離そうとしませんでした。私は心の中で彼に「優しいマスターがあなたの面倒を見てくれるから、怖がらずに行きなさい!」と言う他ありませんでした。
 この話自体は単純なものですが、私に良い啓示を与えてくれました。まず、このヤスデの尋常ではない行動には、きっとホールの高い霊性の雰囲気が関係していると思います。この事から明らかな通り、センターのメディテーションホールは非常に神聖な場所なのです。ですから私たちは常に自分の行動、言葉、考えの清浄を保ってホールの雰囲気を守らなければなりません。
 次に、この小さな虫の行為は、彼が霊的な糧を渇望してどんな困難や危険も全く気にしない事を示していました。すでに菩薩となっている私たち観音法門の修行者を振り返った時、もし凡人の頭脳のけん制により、いろいろな口実を探してグループメディテーションに参加しなかったならば、本当にこの貴重な肉体とマスターから頂いた恩恵を無駄にする事になります。
 また、この虫の聖なる名に対する反応は、マスターが伝えた聖なる名の神聖な力を証明しました。そしてそれと同時に、私たちが仕事や車の運転や夜の外出時に常にこれを黙念する事を忘れずにいれば、有形あるいは無形の多くの衆生に利益を与える事を思い出させたのです。